糖尿病の治療では、食事療法と運動療法はもっとも重要であり、基本となる治療法です。
無理なく続けていくことが重要ですから、ライフスタイルや好みなどに合わせてご自分に適した内容にすることが不可欠です。
糖尿病専門医医師にも相談することで、食事の楽しみを損なわない方法を知ることができます。
ご家族と一緒に相談することも可能です。
食事療法とは
糖尿病では食事療法は不可欠です。
カロリー制限はもちろんですが、規則正しく食事を摂ったり、食べる順番を考慮したりするだけで、血糖値が変わってきます。
ここでは食事療法のポイントについて解説します。
食事療法のポイント
1)適正なエネルギー量の食事を心がける
年齢、身長・体重、性別、生活習慣・仕事(デスクワークか力仕事か)などによって必要なエネルギー量は異なります。
医師の指示に従って、1日の適正なエネルギー量に沿った食事を心がけましょう。
糖尿病の方は1回に食べる量が多い傾向にあります。腹八分目ということですね。摂取エネルギーが適正かどうかは体重の増減で判断できます。
1日のエネルギー量の目安は下記の計算式で算出します。問診などから主治医が決めます。
- エネルギー摂取量(Kcal)= 身体活動量(Kcal)× 標準体重(Kg)
- ※身体活動量の目安は下記の通りです。
- 軽労作(デスクワーク・主婦など) 25~30kcal
- 普通の労作(立ち仕事が多い職業) 30~35kcal
- 重い労作(力仕事が追い職業) 35kcal~
- ※標準体重(Kg)=身長(m)× 身長(m)× 22
2)1日3食、規則正しい食事を心がける
食事をすれば血糖値は上がります。
1回食や2回食だったり、不規則な時間に食事を摂ったりすると不規則に血糖値が上がることで膵臓に負担がかかり、糖尿病の悪化を招きます。
できるだけ規則正しく、均等に食べるように心がけましょう。
食べるときはゆっくりよく噛んで食べましょう。ゆっくり食事をすることで血糖値が上がりにくくなることもわかっています。
一方、早食いは肥満や糖尿病になりやすい傾向があることがわかっています。
3)栄養バランスに気をつける
主食・主菜・副菜で、栄養のバランスのいい食事を心がけましょう。 食事の成分が血糖値へ与える影響を見てみると、炭水化物(糖質)は含まれるカロリーのほぼ100%が血糖値に影響します。食後1時間で血糖値のピークがあらわれます。 タンパク質は含まれるカロリーの50%が血糖値に影響します。食後3、4時間で血糖値のピークがあらわれます。 脂質は含まれるカロリーのほぼ10%以下が血糖値に影響します。食後12時間以降に血糖値のピークがあらわれます。
糖尿病の食事療法では炭水化物制限、糖質制限が有効となります。
普段の食事での三大栄養素の摂取比率(%エネルギー)は以下の通りです。
炭水化物 | 50~60% |
---|---|
タンパク質 | 15~20% |
脂質 | 20~25% |
ただし、糖尿病の治療薬を服用あるいは投与している場合には、急に炭水化物制限、糖質制限を行うと低血糖になって意識が朦朧となるなど危険な状態になるリスクがありますので、十分に医師と相談して行ってください。
また、食べる順番で食後の血糖値に違いが出ます。
食物繊維が多く消化に時間がかかるもの(海藻やキノコ、野菜)を先に食べ、血糖値を上げやすい米やパン、麺類などを最後に食べると、食後の血糖値が改善します。
4)食品交換表を活用しよう
医師に指示されたエネルギー摂取量を実現するために、栄養バランスを考慮して食品を組み合わせていくのは大変です。
そんな時には、書店でも販売されている「糖尿病食事療法のための食品交換表(第7版)」を使用すると便利です。
その他の食事の注意点
計量と記録の習慣をつける
糖尿病の食事療法で大事なのは、適正な量を守るということです。
そのため、食品を計量する習慣をつけることが大切です。
また、食事の記録をつけて、食事内容を確認するようにしましょう。
外食や嗜好品
外食や惣菜は、栄養成分表示を活用して記録するよう心がけましょう。
菓子や清涼飲料などの砂糖の多い食品は控えましょう。
糖尿病はとくに喉の渇きを感じますので、飲料を選ぶ際には無糖の水やお茶などを選びましょう。
その他
食物繊維を多く含む食品をとりましょう。
そして、味付けは薄味を心がけましょう。
日常生活の注意点
禁酒、禁煙、規則正しい生活は健康の基本です。
禁煙や、アルコール飲料は原則飲まないようにしましょう。
また、食事の記録と同じく、体重も定期的に測定して記録をしておきましょう。
そして、エネルギーをきちんと使うことも重要です。
ウォーキングやジョギング、軽い水泳など身体を動かす習慣をつけましょう。
糖尿病食事療法のための食品交換表について
主治医に指示されたエネルギー量を実現するためのメニューを考えるとき、食品ごとに栄養素はバラバラで、しかも朝食・昼食・夕食に振り分けて理想通りの食事をすることは相当ハードルが高いといわざるを得ません。
そこで栄養素の割合によって食品を6つのグループに分けてメニューづくりをサポートしてくれる「糖尿病食事療法のための食品交換表」を有効に活用しましょう。
栄養素別に食品を6グループに分けて表示
※横にスライドしてご覧ください。
食品の分類 | 食品の種類 | 説明 | |
---|---|---|---|
表1 | 炭水化物(糖質)を多く含む食品 | 穀物類・いも類・豆類(大豆を除く)・炭水化物の多い野菜 | ・炭水化物のうち、でんぷんを多く含む食品 ・たんぱく質も少し含む ・かぼちゃなどの野菜、くりやぎんなんなどの種実類 |
表2 | 果物 | 穀物類・いも類・豆類(大豆を除く)・炭水化物の多い野菜 | ・炭水化物のうち果糖やブドウ糖を多く含む食品 ・食物繊維やビタミンC、ミネラルも多く含む ・アボカドを除く果物 |
表3 | タンパク質を多く含む食品 | 魚介・大豆と大豆製品・卵・チーズ・肉 | ・良質のたんぱく質を多く含む食品 ・脂質も比較的多く含む ・ビタミンBやミネラルの供給源 |
表4 | タンパク質・カルシウムを多く含む食品 | 牛乳・乳製品(チーズを除く) | ・良質のたんぱく質、カルシウムを多く含む食品 ・炭水化物のうち乳糖を含む食品 ・脂質も比較的多く含む |
表5 | 脂質を多く含む食品 | 油脂・脂質の多い種実・多脂性食品 | ・脂質を多く含む食品 ・肉のあぶら身、ベーコン、アボカド、ゴマなど |
表6 | ビタミン・ミネラルを多く含む食品 | 海藻・きのこ・コンニャク・野菜 (炭水化物の多いものを除く) |
・エネルギーとなる栄養素はほとんど含まない ・食物繊維やビタミン、ミネラルの供給源 |
表7 | みそ・みりん・砂糖・市販のカレールーなど | ・糖質やたんぱく質、脂質などが含まれるものがある |
食品交換表の単位(食べる量を計るモノサシ)
食べる量を計るモノサシは80kcal=1単位で表示され、1単位ごとの重量が表示されています。
1日の指示エネルギー摂取量が1,600 kcalであれば、1,600 kcal÷80 kcal=20単位を朝食・昼食・夕食に配分して表1~6の中から適宜選択してメニューをつくります。
食品の交換について
栄養バランスを保つため、同じ表のグループ内では自由に食品を選ぶことができますが、違うグループの食品と入れ替えることはできません。
3食の単位配分例
医師から指示された1日の指示エネルギー摂取量(単位表示)で、栄養のバランスの良い食事の配分例(朝食・昼食・夕食)が示されています。
食品交換表の使い方
基本は表1の主食、表3の主菜、表6副菜の組み合わせです。
バランスのいいメニューがつくれます。これらは朝食・昼食・夕食ほぼ均等に配分します。
表2、表4、表5、調味料は料理に合わせて朝食・昼食・夕食に分けます。
表4の食品は間食として摂っても構いません。
詳細については医師の指導と「糖尿病食事療法のための食品交換表(第7版)」を参考にしてみてください。
運動療法とは
糖尿病では、食事療法と運動療法が治療の両輪です。
どちらか欠けても改善は望めません。
食事療法で適正なエネルギー量を取り込み、運動療法でエネルギーを消費することでエネルギーの需給バランスが取れるとともに、筋肉がつくことでインスリンの働きを活性化することができます。
運動のメリット
日本では糖尿病患者のほとんどが2型糖尿病ですが、これは生活習慣病です。
過食、不規則な食事、運動不足、肥満などによって、糖尿病のリスクが非常に高くなっています。
糖尿病ではエネルギー源となるべきブドウ糖がきちんとエネルギーに変換されていません。
運動することでエネルギー消費を促進し、肥満、内臓脂肪を抑制し、同時に筋力をつけることでインスリンの活動を促進することができます。
1型糖尿病でも筋力を高め、運動によってストレスを解消するなど、体全体の健全化に運動は大きく役立ちます。
また、1型は子どもに多くみられますが、子どもの発達にとって適度な運動は欠かせません。
運動療法の効果
運動療法には数多くの効果が期待されます。以下におもな効果をまとめてみました。
- 血液中のブドウ糖を筋肉にとり込みやすくするため、ブドウ糖、脂肪酸の利用が促進されて血糖値が下がります。
- 筋肉が増えることでインスリンの働きが高まります(2型の場合)。
- エネルギーの需給バランスが改善し、肥満の抑制につながります。
- 高血圧や脂質異常症(高脂血症)の改善につながります。
- 血液の循環がよくなり全身的な健康増進に寄与します。
- 末梢血管が強くなり心肺機能が高まります。
- 筋肉や関節、骨が丈夫になり、骨粗鬆症の予防にも有効です。
- 年齢にあった筋力や体力の維持・増強に役立ちます。
- 爽快感があり、活力も向上します。
- ストレス解消に有効です。
どんな運動をすればいのか
糖尿病の改善に有効な運動には有酸素運動とレジスタンス運動の2種類があります。
有酸素運動はウォーキングやジョギング、水泳などの全身運動です。
レジスタンス運動とは、ダンベルなどで筋肉に負荷をかけるもので、いわゆる筋トレです。
有酸素運動は筋肉への血流を増やし、ブドウ糖を筋肉に取り込みやすくし、インスリンの働きがよくなってきます。
筋トレで筋肉が増えるとやはりインスリンの効果が高まります。
運動の効果は3日程度で失われてしまうため、長く継続できることが大事です。
したがって、有酸素運動を中心に継続することを目標にするといいでしょう。まずは散歩を日課にするというところからはじめたらいいでしょう。
どのくらいの運動量が必要か
散歩ならどの程度歩けばいいのでしょう。
消費エネルギーから考えれば1日160~240kcalの消費が理想的だといわれています。
これは歩数でいえば1万歩です。なかなかハードルが高そうですね。
ただ、まとめて1万歩歩く必要はありません。
15〜30分の歩行を1日2回行ったり、毎日でなくても、1週間に3日以上の頻度で行うことが推奨されています。
通勤や通学、買いものなどで歩くことも多いでしょう。
いつもより少しだけ歩く距離を延ばしてみる、乗り物に乗らないで歩いてみるなど工夫次第で消費エネルギーは増やせます。
参考までに、消費エネルギー100kcalとなる運動の種類と時間を上げておきましょう(体重60kgの場合)。
軽い運動 | 軽い散歩30分前後、軽い体操30分前後 |
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やや強い運動 | ウォーキング(速歩)25分前後、自転車(平地)20分前後、ゴルフ20分前後 |
強い運動 | ジョギング(強い)10分前後、自転車(上り坂)10分前後、テニス10分前後 |
激しい運動 | 水泳(クロール)5分前後 |
運動の注意点
たとえ歩行運動でも間違った方法でおこなうと、場合によっては血糖値が上がってしまって糖尿病を悪化させたり、心臓や血管に負担をかけて心筋梗塞を起こしたりするリスクもあります。
やみくもに強度の強い運動をしても、かえって逆効果です。
運動禁止あるいは制限が必要なケースもあります。
運動を始める前に医師の指導を受け、運動療法の原則を守りましょう。
- 準備運動と整理運動は必ず行います
- 軽い運動からはじめ、少しずつ運動量を増やします
- その日の体調と相談しながら、無理のない範囲で運動しましょう
- 継続できることが大事です。楽しんで続けられる運動を選びましょう
- ときどき、運動前後の血糖値や尿糖を測りましょう